金融機関の融資審査において、決算書は企業の経営状態を最も端的に示す「信用の通知表」といえる存在です。
事業内容や将来のビジョン、経営者の熱意も審査材料にはなりますが、最終的に判断の軸となるのは、数字として積み上げられた決算書の中身です。
どれだけ将来性を語っても、現在の財務内容が伴っていなければ、融資判断は慎重にならざるを得ません。

一方で、決算書は「良い会社かどうか」を示すだけでなく、「どこをどう整えれば評価が上がるのか」もはっきりと映し出します。読みやすさや数値の整合性、利益の質、資金の流れなど、金融機関が重視するポイントを押さえて準備することで、同じ業績でも融資評価は大きく変わってきます。

本章では、金融機関の融資審査を有利に進めるために、決算書のどこが見られているのか、どのような点に注意して整えるべきかについて、実務目線で整理していきます。

1. 財務三表の読みやすさと整合性

融資審査において、最初に確認されるのが財務三表の整合性です。
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書は、それぞれ独立した資料に見えながらも、実際には数字が密接に連動しています。この三表の数値にズレや違和感があると、経理処理の正確性や管理体制そのものに疑念を持たれ、金融機関からの信頼を損ねる要因になりかねません。

金融機関が財務三表で見ている主なポイントを整理すると、以下のようになります。

項目主なチェックポイント金融機関の見方
貸借対照表売掛金・棚卸資産・借入金・純資産資産の実態と財務の安定性
損益計算書営業利益・原価率・販管費本業の収益力と継続性
キャッシュフロー計算書営業CF・投資CF・財務CF実際の返済余力と資金の流れ

実務の現場でとくに注意したいのは、金融機関が「実態とズレているのではないか」と警戒しやすいポイントです。
たとえば貸借対照表において、売掛金や棚卸資産が年々増え続けているにもかかわらず、回収や在庫圧縮の具体的な取り組みが見えない場合、資産の健全性に疑問を持たれやすくなります。
数字の上では黒字でも、「実際には資金化できていない資産が多いのではないか」と判断されれば、評価は一気に厳しくなります。

また、損益計算書で営業利益が出ていても、それが一時的な要因によるものなのか、継続的な収益構造によるものなのかは厳しく見られます。
補助金収入や一過性の大型案件によって利益が膨らんでいる場合、その背景を説明できなければ、将来の返済原資としては不安定と受け取られてしまいます。利益の「質」が問われる場面といえるでしょう。

さらに注意が必要なのが、損益計算書では黒字であるにもかかわらず、キャッシュフロー計算書では営業キャッシュフローがマイナスになっているケースです。
売上が立っていても入金が遅れている、在庫が過剰に積み上がっている、設備投資や借入返済が資金繰りを圧迫しているといった状態が続くと、「帳簿上は利益が出ているが、実際の資金は回っていない会社」と見なされ、融資判断は一気に慎重になります。

このように、三表の数字がそれぞれ単体で良く見えていても、実態と連動していなければ評価は上がりません。
金融機関は黒字かどうかだけでなく、その利益が実際に資金として回っているかまで確認しています。損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書の三表が同じ実態を映しているかどうかを、日頃から意識して整えておくことが重要です。

2. 自己資本比率と財務体質の評価

金融機関が企業の財務体質を見るうえで、自己資本比率は必ずチェックされる指標の一つです。
自己資本比率は、総資産のうちどれだけが返済不要の自己資本で賄われているかを示す数値であり、企業の「財務的な耐久力」を測る目安として捉えられています。
この比率が極端に低い場合、少しの業績悪化でも資金繰りが不安定になりやすい企業と判断され、融資審査では慎重な評価になりがちです。

実務でよく見られるのが、長年にわたって赤字や資金不足を借入で補い続け、自己資本がほとんど積み上がっていないケースです。
このような状態では、たとえ直近の決算が黒字であっても、「財務体質の改善はまだ道半ば」と見られ、融資条件が厳しくなることがあります。
金融機関は単年度の結果だけでなく、どれだけ自己資本を積み増してきたかという過程も重視しています。

また、役員借入金や役員貸付金が多額に計上されている場合も注意が必要です。とくに役員貸付金が長期間残っていると、会社資金の管理体制や透明性に疑問を持たれやすくなります。
実態としては一時的な立替であっても、決算書上は「会社のお金が外部に流出している状態」と見なされるため、評価が下がる原因になりかねません。

金融機関が評価するのは現在の自己資本比率だけではなく、今後この会社の財務体質が良くなっていく流れがあるかどうかです。少しずつでも自己資本を厚くしようとする姿勢そのものが、評価につながります。

3. 利益率と返済原資

融資の返済原資は、最終的には企業が生み出す「利益」です。そのため金融機関は、売上の大きさ以上に、利益がどれだけ安定して確保できているかという点を重視します。
とくに注目されるのが、売上総利益率や営業利益率といった「本業の収益力」を示す指標です。これらの利益率が安定していれば、返済原資も継続的に確保できる企業と評価されやすくなります。

金融機関が利益率を見る際の主なチェック視点は、次のような点に集約されます。

・売上総利益率が年々大きく下がっていないか

・営業利益率が安定的に確保できているか

・売上の増加と利益の増加が連動しているか

・一時的な要因による利益のブレが大きくないか

これらのバランスが崩れると、売上は伸びていても実際には返済に回せる利益が十分に残らない構造になってしまいます。
過度な値引きや広告費の増加、人件費の急増などによって利益率が圧迫されている場合には、「成長しているようで返済余力が弱っている会社」と判断されやすくなります。
また、過去数年分の決算を見たときに利益の振れ幅が大きい企業も、返済の安定性という面では慎重に評価される傾向があります。

一方で、補助金収入や一時的な大型案件によって利益が大きく膨らんでいる場合にも注意が必要です。
こうした一過性の要因による黒字は、将来にわたって継続する返済原資とは見なされにくく、金融機関は「来期以降も同じ水準の利益が出るのか」という点を厳しく確認してきます。

金融機関は、利益の金額そのものよりも、その利益が今後も安定して返済原資になり続けるかどうかを見ています。利益率は、企業の収益構造の健全性を示す重要な指標です。

4. 資金繰りの実態とキャッシュフロー管理

融資審査においては、利益が出ているかどうかと同時に、「手元にどれだけ資金が残っているか」「資金の流れが安定しているか」という点も非常に重視されます。いくら黒字決算であっても、資金繰りが不安定であれば返済能力には疑問が残るため、金融機関は実際の資金の動きに強い関心を向けています。

とくにチェックされやすいのが、次のようなポイントです。

・手元資金が月商の何か月分確保できているか

・売掛金と買掛金の回転期間が適正か

・短期借入金に過度に依存していないか

・季節変動による資金不足が慢性化していないか

これらに偏りがある場合、「一時的に回っているだけの資金繰り」と判断されやすく、融資に対して慎重な姿勢を取られる要因になります。とくに売掛金の回収が遅れがちな企業では、帳簿上は黒字でも、実際の資金は常に不足気味というケースも少なくありません。

その点で、資金繰り表を作成している企業は、金融機関からの評価が高まりやすい傾向にあります。毎月の入金予定と支払予定を可視化することで、資金不足が起こるタイミングを事前に把握できるため、経営者が計画的に資金管理を行っていることの証明になります。
決算書だけでは見えにくい「日々の資金の流れ」を補完する資料として、非常に有効です。

また、資金繰りに不安要素がある場合でも、回収サイトの短縮や請求フローの改善、不要な支出の見直しなど、具体的な改善策を実行していることを示せれば、評価が大きく下がることは避けやすくなります。
金融機関が見ているのは「過去の数字」だけでなく、「現在どれだけ管理できているか」「今後どう改善していくか」という姿勢そのものでもあります。

資金繰りとキャッシュフロー管理は、融資審査のためだけに行うものではありません。経営の安定性を支える土台そのものでもあります。
日頃から資金の流れを把握し、余裕を持った管理を続けていくことが、結果として融資を有利に進める最大の下地になります。

まとめ

本章では、金融機関の融資審査を有利に進めるために、決算書の整え方と各指標の見られ方について整理してきました。
融資審査においては、単に黒字であるかどうかだけでなく、財務三表の整合性や利益の安定性、そして実際の資金の流れまで、多角的に評価されています。

自己資本比率や利益率は、企業の財務体質や収益構造を映し出す重要な指標であり、返済能力の判断にも直結します。さらに、資金繰りやキャッシュフロー管理が適切に行われているかどうかは、決算書では見えにくい「経営の実務力」を測る材料として重視されます。

金融機関が見ているのは、過去の数字だけではありません。現在の管理体制や、将来に向けた改善姿勢まで含めて評価されています。日頃から決算書の内容を正しく把握し、自社の強みや課題を説明できる状態を整えておくことが、融資を円滑に進める最大の近道といえるでしょう。

いざというときに慌てるのではなく、平時から財務管理と資金管理の精度を高めておくことが、結果として企業の信用力を高め、資金調達の選択肢を広げることにつながります。