日本は海外と比べるとスタートアップ企業が育ちにくい環境だと言われます。
海外ではユニコーンと呼ばれる有望性の高い企業が育ちやすいとされていますが、国内の起業家はスタート当初で大きな苦労を伴うことが多いです。
実績や信用が薄い状態のスタートアップ企業は人材育成や資金調達で苦労を伴うことが多いので、本章ではこの課題と対応策について取り上げていきます。

■人材の獲得・育成面の課題

人材の獲得・育成面の課題

まずは人材の獲得・育成面におけるスタートアップ企業の課題を見ていきます。

①ネームバリューで劣る
スタートアップ企業は知名度が低い状態ですので、人材市場から見てネームバリューを感じにくいことは否めません。
ベンチャーキャピタルの支援を得ているなど将来の有望性を表に出せれば話は別ですが、そうした強みが無いと名前が売れている他社にどうしても見劣りしてしまいます。
結果として人材の獲得競争力で他社に優位性を奪われてしまうということになりがちです。

②必要人材が定まらない
スタートアップ企業は会社の事業内容や推進の仕方がまだ定まっていないため、必要となる人員の数や求められるスキルが定まらないという問題を抱えることが多いです。

③ミスマッチが起きやすい
必要な人材の数や求められるスキルなどが定まっていないと、取りあえずマンパワー欲しさに採用して、問題があっても後からなんとか修正しようという意識になりがちです。
募集に応じる側も本当に自分が必要とされているのか分からないまま採用されて、実際に求められているスキルと自分のスキルに差異を感じたり、考えていた仕事とは別の仕事を割り当てられたりすることで不満を感じる結果になります。
ミスマッチによる採用後のトラブルはどの会社でも起こりうることですが、雇う側の経営者自身も若く人生経験、経営者経験が浅いとそのリスクは大きくなります。

④採用効率の悪さ
採用される側にとっては数ある候補の中の一企業ということで、ネームバリューの無い会社は複数企業を相見積もり感覚で選別する中で優先順位が低くなっている可能性があります。
そのため、仮に内定を出したとしても他の優先順位の高い会社からも内定をもらえばスタートアップの側はキャンセルされてしまいます。
採用効率の悪さもスタートアップにとっては悩みの種になるかもしれません。

⑤費用面の問題
スタートアップ企業は一般的に財務面でも脆弱ですから、採用に掛けられるコストも既存企業と比べると制限されることが多いです。
資金面で費用の掛かる大手の求人媒体や人材サービス会社を十分に活用できないと、やはり競争優位性が落ちてしまいます。

■人材獲得・育成面で意識すべきこと

人材獲得・育成面で意識すべきこと

では人材方面の課題に対する対策として、意識すべき点を見ていきます。

①必要とする人材の解像度を上げる
まずは社内で必要な人材像について、できるだけ解像度を上げることが大切です。
そのためにはまず任せる仕事の内容を明確にし、そこから必要なスキルを割り出し、そのスキルを持った人物を探すことになります。
さらには社内で一緒に働く仲間を探すわけですから、社風に合った人柄なども選定材料になるでしょう。
ここら辺を社内で十分に協議することで最終的に求める人材像が明確になります。
求める人材像が明確になれば、採用活動の際にはっきりと相手に伝えられますから、これにより採用後のミスマッチを避けられます。

②柔軟に対応できる準備をしておく
実際には自社が求める人材が必ず採用に応募してくれるとは限りません。
即戦力が上手くとれればいいが、いない場合はどうするか、スキルを最優先するのか、人柄を重視するのか、給与面のコストを優先するのかなど、各要素の優先順位をあらかじめ付けておくと採用選考がスムーズにいきます。

③育成環境の整備
求める能力を100%充足する即戦力人材が希望通りに現れてくれる可能性はそう高くありません。
できるだけ必要な能力を充足する人材を取ったとしても、不十分な状態から勤務がスタートすることを前提として、採用後の育成環境も準備しておくようにしましょう。
一定期間、外部の専門機関などで訓練を積んでもらうという方法もあるでしょうし、OJTとして勤務をしながら必要なトレーニングを行うということもできます。
その場合は社内の別の人材が教育にあたることになりますから、その人の負担も考えなくてはなりません。
教育に専念してもらうのであれば、その分本業の稼働ができなくなりますから、さらに周りの人員でカバーする体制を整えないと各所から不満がでることになります。
採用後の社内の体制についても事前に考えておくようにしましょう。

■資金調達面の課題

スタートアップの場合、資金面の課題は何といっても信用や実績の無さです。
その実績を作りたくても先立つ資金がないということで、このジレンマがスタートアップの大きな悩みになります。
代表者の個人資産による担保や保証人が用意できて銀行からの借り入れができるのであればいいとして、それができない場合はどうすればいいのか考えてみます。

■銀行融資以外の調達方法をフル活用する

銀行融資以外の調達方法をフル活用する

銀行融資以外にも資金調達法はいくつもあり、スタートアップが利用できるものもあります。
以下で見てみましょう。

①公的融資制度
スタートアップや中小事業者など銀行融資を受けづらい事業者を対象にした公的融資制度があります。
日本政策金融公庫は国の施策に沿う事業内容であれば低利率で融資を受けられるのでぜひ検討しましょう。
条件が合わずこれを利用できない場合、一般の銀行融資を引き出しやすくする公的保証を検討できます。
信用保証協会に一定の保証料を払うことで保証を取り付け、この信用を元に銀行から融資を引き出しやすくすることができます。

②ベンチャーキャピタル
将来性の強いスタートアップ企業であればベンチャーキャピタルやその個人版のエンジェル投資家の支援を受けることもできます。
その場合、資金面だけでなく技術やノウハウ、人材などの面でも支援を受けられる可能性があります。

③クラウドファンディング
クラウドファンディングは広く一般の個人や法人から小口の投資を募る方法です。
基本的に集めた資金は返済の必要はなく、出資者には開発した製品やサービスを還元して満足を得てもらいます。
面白いアイデアや社会的事業と相性が良いので、スタートアップ企業が利用しやすいと思われます。

④ファクタリング
一定程度の事業歴があり売掛金が発生している場合は、これを現金化して事業資金とすることができます。
ファクタリングは融資と違って返済の必要がないので、安定した事業資金として利用できます。
また保証人や担保も一切不要ですから、担保資産を持たない業種であっても全く問題ありません。
迅速性もあるので資金ショートのリスクが発生した場面でも有効です。

■まとめ

本章ではスタータップ企業の人材確保や資金面の課題と解決法について見てきました。
会社を安定期に移行させるまで何かと苦労が多いスタートアップは、戦力人材の確保や資金調達においても不利になりがちです。
資金面は一般的な融資に頼らない方法もいくつかあるので、可能なものを組み合わせるなどして工夫しましょう。
人材面はネームバリューで劣る点は否めませんが、一つの会社を一緒に作っていく面白さを発信するなどして相性の良い人材探しに努めてください。