IT技術の進化と共に、近年はAI技術の目覚ましい進展が見られます。
ディープフェイクに代表されるような負の側面があることに一定の注意が求められますが、それを超える正の作用も多く持ち合わせています。
AIの開発や利用は一定の規制がかかることはあっても衰退することはまず考えられません。
今後の利用拡大は必至ですので、個人としても企業としても上手く付き合っていく姿勢が必要です。
一般企業はもとより、金融機関でも積極的にAIの導入が進められていますので、本章では金融機関でのAIの導入状況やサービス自動化の進み具合、またこれが企業に対してどのような影響をもたらすのかなどについて考察してみたいと思います。
金融機関がAI導入を進める理由
各金融機関では積極的にAIの導入が進められていますが、進度的には各金融機関とも半ば焦り気味で前のめり的に急ぎ導入が進められている印象です。
というのも、銀行等の金融機関はかねてから時代の要請というべきか、多くの課題を突き付けられている状況でした。
これに対応するにはAIの積極活用が必要不可欠ということで、急ぎ導入が進められている現状があります。
金融機関が抱えていた課題をいくつか挙げて見ると以下のようなものがあります。
①セキュリティ対策に多額のコストがかかる
銀行などの金融機関は他の一般商社よりもはるかに高度なセキュリティ対策が求められます。
一旦事故が起きてしまえば、顧客に大損害を与えることになり、その損害に対する補償などで大きな損害を生むことになります。
現在でも必要な対策は随時取られていますが、昨今のサイバー犯罪は手口が巧妙化、高度化しており、いつ事故が起きてもおかしくない状況が続いています。
ウイルス対策やネットワークの保護などに多額のコストがかかる上に、業務効率化を狙って新たなソフトを導入するなどすれば、その脆弱性を狙って攻撃を受ける可能性があるので下手に導入できないという苦しい面もあります。
これをカバーするために人力での対応が求められるような面もあるので、コストがどうしてもかかり増しになりがちです。
AIはこうした問題に対応する大きな力になります。
②支店運用のコストが重荷になっている
地銀を中心に支店の統廃合が進んでいるので、身近にあった支店が急になくなり困ってしまったという人もいると思います。
支店を開設して運用するには地代や人件費などが多くかかります。
人員を減らして支店を統廃合し、少ない人材をカバーするためにAIが有効に機能します。
③収益源の確保が難しくなっている
旧来型のビジネスモデルでは、企業等に貸し出しを行い利息利益を得るというのが銀行ビジネスのセオリーでした。
直近の日銀政策の変更で金利は若干上がったものの、まだ低金利状態から抜け出せたとは言えませんし、これまでの低金利も尾を引いて利息利益だけを収益源とするのは限界です。
銀行が生き残るには新たな収益モデルを打ち出していく必要があり、この点でAIの創造力に頼る素地があると言えます。
AI導入で金融機関はどう変わる?
AIを導入することでまずは業務の効率化が図られます。
問い合わせ対応の自動化や、窓口業務の一部を自動化させることで従業員の負担を減らしたり、人員削減が可能になります。
数年前から金融機関ではお昼休みの時間を確保し従業員の負担を減らす取り組みがなされてきましたが、従業員の働く意欲を維持するためにもAIをリソースとして積極的に活用すべきです。
AIは昼も夜も休みなく働き続けてくれますから、24時間セキュリティ監視を続けてくれます。
また不正検知の自動化が可能で、人力で対応するのに比べてはるかに効率的です。
深化し続けるサイバー犯罪の手口に人力で都度対処するのはかなり大変ですが、AIならば負担を避けて効率的な対処が可能です。
そしてこうした従業員の負担軽減、人材リソースの効率化によってもたらされるのが、雇用面や人材活用面のメリットです。
例えばこれまでコールセンターなどにかけていた人件費や設備費を浮かせ、その資源を他の基幹業務に振り分けることができます。
人間でなければできないことに資源を集中させることで、淘汰されない骨太の経営体制構築が可能になります。
AI導入によるリスク
AIを導入すること自体は悪いことではありませんが、頼りすぎることによるリスクを指摘する専門家もいます。
AIは過去の事例を学習して成長していくことができ、その可能性は非常に大きいものがありますが、新たな事象に対応する力については不安があります。
過去の学習から新たな事象にも適切に対処できる期待はある程度持てますが、それができず混乱が生じる可能性もあります。
AIは完ぺきな存在ではないので、頼りすぎると足をすくわれてしまったり、大きなトラブルに発展する危険性も秘めていることに留意が必要です。
金融機関のAI活用事例
ではここで、各地の金融機関でどのようにAI導入がなされているのか見てみましょう。
①十六銀行
岐阜県の十六銀行では対話型AI「BEDORE Conversation」を取り入れ、チャットボットの運用を行っています。
利用者の相談内容を分析したところ、住宅ローンの質問が多く確認できたことから、ローン関連のFAQを充実させるとともに、住宅ローン専用のチャットボットも導入されています。
ローン商品の需要から収益源の確保に道筋が見えそうです。
②常陽銀行
茨城県を中心に展開する常陽銀行では顧客企業の口座の資金移動データをAIが分析し、資金需要を先んじて感知する取り組みが実施されています。
先んじて資金需要を予測し、顧客企業に融資の提案を行うことで顧客に有益性をもたらし、スムーズな取り引きに繋げられているようです。
③ゆうちょ銀行
ゆうちょ銀行では郵便局などの店舗社員が利用できるAIチャットボットを導入し、顧客から寄られる相談や質問に対する回答がしやすい環境を整えています。
従来、店舗の窓口社員では回答や対応が難しい内容についてはパートナーセンターと呼ばれる専門のオペレーターが所在する部署に電話で問い合わせをしていました。
この形態では一件一件の問い合わせに対応できたとしても、別の店舗から同様の相談が入ればオペレーターはまた同じ回答をしなければならず、現場店舗レベルで情報の共有ができません。
そこで過去に起きた相談内容をAIが蓄積し、チャットボットで回答が可能な環境を作ることで現場担当者が速やかに顧客の質問に回答できるようにしています。
パートナーセンターのオペレーターもチャットボットを利用できるので、新人であっても必要な情報をすぐに引き出せます。
AIが情報を集約し、社員がアクセスできるようにすることで回答業務の効率化が図られました。
④住信SBIネット銀行
住信SBIネット銀行では不正送金を監視するAIを開発し、24時間のモニタリングを実施しています。
過去に起きた第三者による不正送金事案を学習することで類似の不正を早期に検知できるようになり、これまで以上に顧客の資金保護が図られることになりました。
AI活用で今後どのような期待が持てるか
各金融機関では様々な取り組みが行われていますが、業界全体として今後AI活用によりどのような期待が持てるか考えてみましょう。
一つは顧客属性に合わせた商品開発が可能になる期待があります。
AIが得意なデータ分析により、個別の顧客に喜ばれる商品の開発や提供が可能になります。
例えば住宅ローンなどのローン商品を顧客の属性に応じてカスタマイズして提案する、その顧客のライフイベントに応じたローン商品を自動でお勧めするなどの営業行為が可能になります。
この点は保険業界でも大きな期待が持たれています。
保険商品の開発にはビッグデータの蓄積と分析がかかせませんが、AIはこの作業が得意ですから、時代に合わせた商品開発が容易になりますし、個別の顧客の状況やライフイベントに合わせた適切な保険商品の提供、あるいはカスタマイズか可能です。
個人の顧客に対する営業は勿論、ビジネス分野でも大きな期待が持てます。
企業向け生命保険や損害保険の分野で企業を相手にした保険商品の開発、売り込みにAIは大きな力になってくれるでしょう。
二つ目に、金融機関が顧客に対するアドバイスの提供主体となる予想ができます。
金融機関は主に顧客の資産管理を担う存在でしたが、AIを導入することで顧客がどのような目的でどれくらいの資金移動を行ったのか記録を分析することができます。
その分析結果を活用し、金融に関するアドバイスをプッシュアップで積極的に行い、知識やノウハウの提供主体となる事ができます。
これは単に営業力の強化というだけでなく、他の金融機関との差別化を図り、淘汰されにくい存在になる事を意味します。
AI導入にかかる課題の存在
AI導入は今後も積極的に進められることに間違いありません。
しかしそこには以下のようにいくつかの課題やハードルもあります。
①ベンダーロックの問題
金融機関は自らAIを開発したり導入したりすることは基本的にできません。
ですから外部のベンダーの手助けが必要です。
システムを導入した後、メンテナンスや管理も任せなければならず、システムを変更するなどの必要が生じた時に費用面から他社に乗り換えることは容易ではありません。
実力のないベンダーと最初に付き合ってしまうと、必要十分なシステムの導入が叶わず中途半端になる可能性もあります。
付き合うベンダーの実力や、方針を転換する際のベンダー乗り換えの可否については十分に検討が必要です。
②AI知識をもつ人材の確保
AIを導入すればある程度自走してくれますが、問題の検知や日々の監視などにやはり人の目は必要です。
それに耐え得るデジタル人材の確保ができないと、せっかくのAIも十分に機能を発揮することができません。
③レガシーシステムの存在
レガシーとは遺産とか遺物の意味で、レガシーシステムは昔の技術や仕組みを用いて構築されたシステムのことを指します。
古い技術で構成されたシステムは最新のAI技術とスムーズにつながれないことがあります。
そのためレガシーシステム全体を撤廃して一からシステム構築が求められるケースも想定され、そのためのコストや手間が莫大なものになってしまいます。
一般企業への影響を考える
ではここでAIを利用した金融サービスの自動化が与える一般企業への影響を考えてみましょう。
金融機関でのAI実装が滞りなく進んで、望ましい自動化サービスが適切に提供されると仮定しての話ですが、基本的にはメリットしかありません。
問い合わせへの対応が迅速に受けられるので、融資の際の審査資料を自動で案内してくれる、あるいは審査自体を自動で行ってくれるなどのメリットが受けられます。
より精度の高いセキュリティ対策が講じられることから、相談や審査の際に提出する個人情報や企業情報の漏洩リスクも軽減します。
また上で見たように個々の顧客に対してパーソナライズされた提案を受けられる機会が増すので、自社の資金繰りに関する問題を先んじて指摘してもらったり、適切な資金繰りの提案を受けられることになるでしょう。
同じように自社に見合った保険の提案も受けられます。
単に特定の事態に備える意味での保険のみならず、保険によってリスクに備えた上で、新規分野に事業展開を行うなどリスク管理の元で新しいビジネスモデル構築がしやすくなるかもしれません。
保険は節税ともつながるので、税金や節税方面での提案も自動で受けられるかもしれませんね。
まとめ
本章では金融機関でのAIの導入状況やサービス自動化の状況、企業に対する影響などについて見てきました。
金融機関でのAI導入や業務の自動化は鋭意進められており、課題はあるものの今後も深化していくことは確実です。
一般企業にとっても恩恵は様々あり、迅速な資金調達が可能になりますし、今後は資金繰りやビジネス展開、節税などに関しても自動で提案を受けられる時代になりそうです。
AI導入を中心とした各種業務の自動化や顧客利便性の追求は金融機関だけでなく我々一般商社でも進められています。
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